2008年10月25日

フリーダ・カーロ 痛みとカタルシス2

前回に引き続き、カーロの絵を紹介します。 今回の空想美術館は痛いぜ!

夫を交通事故で亡くした後、自分も自殺してしまったハリウッド女優ドロシー・ヘイル。カーロはへイルの友人、クレア・ルースから記念の肖像画を依頼される。出来上がったのがこちら。













The Suicide of Dorothy Hale, 1938, Oil on masonite with wooden frame, Phoenix Art Museum
「ドロシー・ヘイルの自殺」

肖像画を依頼されてるんだっていうのに、投身のプロセスと遺体を描いちゃうという。そんな百年の友情をも一瞬にして粉砕するような破壊力抜群な絵なわけですが、わたくし実はこれは中々の物だと思うのですよ。

初期のイメージとは明らかに違って、成熟したスタイルで描かれています。絵は上から順番に物語形式になっております。高層アパートメントから飛び降りるへイル、真ん中では落ちていくへイルのアップ、そして一番下は地面に横たわる遺体。この上から下への展開は時間の経過を表すのと共に、飛び降りの物理的な動きも再現してるんですね。こうする事で観衆はヘイルと一緒に飛び降りを体験することになるわけです。

そして、意見は分かれると思うのですが、ヘイルが美しい(どこが?って言わずに、まあ落ち着け)。彼女の身体がリアルな死体としてではなく、とても美化されて描かれている。まるで舞台の上で死ぬ役をやっているようにも見えます。儚くて物悲しい、どこか宗教画に登場する殉教者のような美しさがある。青い空で統一された背景は、ニューヨークの町並みではなく、まるで天国。下の文にはへイルの自殺の日時や様子がリタブロー(retablo)風に書かれていて、カーロが宗教画を意識してこの絵を描いた事がわかります。血文字で書かれてるところはフリーダ流、そこはこの際さらっと流そう。

この絵を書いた頃、カーロは別居中のリベラとの関係に悩み、自分でも自殺を考えていたそうで。

とにかく、完成した絵を見たルースがぶったまげたのは間違いないわけです。ポートレイトを頼んだはずなのに、こんなのが届けられる。予想外これに極まりです。


カーロの予測不可能っぷりは、相手が権力者でも発揮される。














1942, Oil on copper plate, Museo Frida Kahlo, Mexico City


これはメキシコ大統領の夫人からの注文で描いた静物画で、どこからどう見てもアレなわけです。ファースト・レディは受け取りを拒否したそうな。すっげええ(拍手)!!

そんなイカしたKYっぷりのカーロ。リベラとの離婚後、痛い心をこれでもかと更に痛く描き表します。













The Two Fridas, 1939, Oil on canvas, Museum of Modern Art, Mexico City
「二人のフリーダ」

カーロは文字通り血が出るほど苦しんだようです。ひとりはメキシコ風の服に身を包んだ、リベラに愛された自分。もうひとりはヴィクトリア風ドレスを着た、リベラから捨てられた自分で、捨てられた方の心臓は破裂しております。愛された方のカーロが持っているのは小さなリベラの肖像、そこから伸びる血管が2人のカーロをつないでおりますが、鉗子で押さえていても切れた血管からしたたる血・・・。わあああ、痛い!

カーロは「私は自分の現実を描くのです・・・何でも頭の中に浮かぶことを深く考えずに描きます」と言ったそうですが、絵を描くことがカタルシスになっていたんでしょうな。絵は苦しい時、その痛みを吐き出す所だったんですね。晩年は健康状態が悪く、46歳にしてほぼ寝たきりになったカーロ。右脚の壊疽が悪化して膝から下を切断した後、自分の脚をスケッチし「足・・・もし私に飛ぶための翼があるのなら、そんなもの何のために必要なのか」と書いており、強靭な精神を持っていたことを伺わせます。

実際のカーロは快活で、下品な言葉も下ネタのジョークもよく言っていたらしいです。マスターベーションしている自画像も描いてるし(火事で消失)、わき毛もボーボーだし。いろんな意味でハジけた女性であったことは間違いないですな。あ、あと彫刻家のイサム・ノグチと画家のジョージア・オキーフもカーロと愛人関係にあったらしいですよ(そういえばオキーフもわき毛がすごかったな)。

最後にわたくしの好きな絵を。










Moses, 1945, Oil on masonite, Private collection
「モーセ」

カーロは他にも面白い絵を描いてるので、機会があったらまたその時に。



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