私には外資系の仕事に就いている兄がいるのですが、その兄が今多いにはまっているのが海外ドラマ。
ネットでオーダーしているらしく、帰ってくるとよくテレビで見ています。
私も時々一緒に見ているのですが、面白いですね。(英語は難しいですが。)
役者も上手いし、何よりスケールが違いますなあ。
兄が最近気に入っているのが「
ザ・クリーナー」というアメリカのドラマシリーズ。
麻薬中毒患者を更生させる職業に就いている自分自身も元中毒者という男性、ウィリアムが主人公なのですが、これが中々おもしろい。
登場する人たちは、一口にヤク中といっても、アル中、シャブ中から処方薬の乱用までおりまして、これが皆さんどれもひどい状態。
クスリを手に入れるためだったら何でもする、みたいな。ドラマなんだけど、非常にリアルなやられっぷり。
そんな常軌を逸しちゃってる方々を厳しく暖かく説得し、時に無理やり安定剤を注射して強制的にリハビリ施設に入れるウィリアムと仲間たちの物語なのですが、実はこのドラマの1シーズンのDVDのカバーが気になりましてね。
コレ
一目見た時にハッとしたんですが、この抱かれている方のウィリアムのポーズって、
カラヴァッジオの「キリストの埋葬」(1600,バチカン宮美術館蔵)ですよね。
ちなみにカラヴァッジオについては前にも書いております。その時の記事は
こちら。
こんなに似ててまさか偶然てことは無いよね、と思って兄に聞いてみたのですが、
「その絵知らない」と一言。
有名だけど、でも知らない人は知らないわ、確かに。
ちょっと見てみてよ、とDVDと比べて写真を見せてみると、
「あー、似てるね。なんか、この絵だってピンと来なくても、どっかで見たことあるような感じはするんだよな」と言う。
それもそのはず。この、死んで抱きかかえられるキリストのモチーフというのは元々ピエタから来ているもので、中世ごろにはヨーロッパですでに確立されていたんです。
ピエタというのは、死んだキリストを抱きかかえる聖母マリアのことでして、キリスト教美術には良く出てくるイメージです。
赤ん坊のキリストを抱く聖母像の対照にあたるんですな。
そして世界で一番有名なピエタといえば、恐らくミケランジェロ作のこれでしょう。
意外とでかい
「ピエタ」(1499,サン・ピエトロ大聖堂蔵)
この、腕だらんポーズ(名作が一気にイロモノっぽい名前に)は後世のアーティストに非常に影響を与えました。
カラヴァッジオもこのピエタのキリストのポーズにインスピレーションを得て、「キリストの埋葬」の腕だらんを描いたようだし、カラヴァッジオと同時期にローマで活躍した アンニーバレ・カラッチ(1560-1609)もこのポーズを使っています。
更なる腕だらん
「キリストの死(三人のマリア)」(1606,ロンドン・ナショナルギャラリー)
DVDのカバーにまで使うなんて、みんなどんだけ腕だらんが好きなんだ!
と思いましたが、あたしも好きだな、腕だらん。
この抱きかかえられるポーズ、身体のしなやかさと無防備さが強調されて、そこはかとなくエロティックだと思いませんか。
死んでるというより、眠っているようでもありますしね。 あ、カラッチのは明らかに死んでるか、顔青いわ。
まあ、とにかくこんなトリビアを知ってからDVDカバーを眺めると、なかなか奥が深いですよね。
こういう遊び心は大好きです。単なる偶然だったら寂しいですが。
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